忘れられない人
龍二が目を閉じている間に、陽菜は台所でお湯を沸かしていた。沸騰したお湯をカップに注ぐと、心が安らぐ香りが部屋を包み込んだ。龍二は、その香りに起された。今までとは全然違う本場の香りがした。


『お客様、ご注文はお決まりでしょうか?』

陽菜が店員もどきをして楽しんでいた。龍二も、ついつい乗ってしまいケーキを注文すると、本当にテーブルまで運んで来てくれた。唖然とした顔で見上げると陽菜は笑っていた。

『他にご注文は?』

笑いながら「大切な彼女が来るのでもういいです」と断ると、店員さんは「あなたの彼女が羨ましいです」と言って下がって行った。そして、エプロンを外した陽菜が龍二の前に現れた。

『どうだった?』

そう言って龍二の隣に座った。龍二は、コーヒーを飲みながら「綺麗な店員さんがいた」と冗談で言ったのに、何故か陽菜がこいつの胸をポコポコ叩いてきた。

『ちょっ、どうして怒る?店員と陽菜は同一人物だろ?』

コーヒーが零れないように慌ててテーブルに置いて陽菜を宥めた。

『そうだよ‥でも、龍二の一番は私でありたいの!!』

ムキになって言ってきた。
どうして、こいつは可愛いことばかり言うんだろう。龍二は陽菜のおでこをくっつけた。


『俺が悪かった。だから機嫌直せよ?』

『‥‥‥』

おでこをくっつけたまま沈黙が続いた。この後どうしたらいいの分からない上に体が言うことを聞かない。

『‥あのさ~』

すると陽菜から離れた。

『もう、機嫌直ったから!!』

恥ずかしさからなのか、龍二と目を合わせようとはしない。だから無理矢理振り向かせた。

『本当だ。機嫌直ってる』

少しニヤニヤしていると陽菜の顔から笑顔が見れた。ホッとして力が抜けた気がした。


そんな二人のやり取りを見ていた俺から一言。

バカップル。
こいつら超バカップルだよ‥お揃いの食器とか、パーカーとか持ってるんじゃね?携帯は同機種でストラップは‥二つ揃って一つのものになるって奴とかつけてるかもな。

あ~なんか鳥肌が凄い立ってる!!お前らのラブラブ度は分かったから、早く俺を陽菜に渡してくれよ。おい龍二!お前はいつ渡すつもりなんだよ?

こいつの行動が読めない‥‥
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