忘れられない人
お前達、昨日どんな会話をしたんだよ。俺に分かるように説明してくれないか?なぁ~龍二。

もしかしたら、こいつとは以心伝心の間柄なのかもしれない。俺が疑問に想っていることを、こいつが陽菜に聞いてくれた。


『俺の‥お願い‥?』

『そうだよ!忘れちゃったの?私のお願いを聞くから俺のお願いも聞いてって。簡単だからって言ってたじゃん、昨日!!』

陽菜は龍二の体を横に揺らして思い出させようとしていた。でも、龍二の様子からして忘れていた訳ではなさそうだ。ただ‥忘れたフリをしていただけ。

表情なんか見なくても声で分かる。こいつ‥何か企んでるな。

俺は咄嗟にそう思った。


『本当に聞くのか?』

『うん。龍二が約束守ってるのに私が破るわけにはいかないでしょ?』

陽菜のお願いって‥
「約束守ってる」って言い方をするって事は、現在進行形で行なっていること。つまり、このデートの事を指しているんだろう。きっと。

『そうだけど‥‥本当にいいのか?』

龍二はしつこく確認をしていた。
こんなに聞くって事は、さては疾しい事をやらせるつもりだな。


『イイって言ってるじゃん!!さっきから何なの?私には出来ないことなの?』

陽菜は少し苛立っていた。そんな様子を見て、龍二は観念して考えていた「お願い」を言うことにした。


『俺が‥動物好きって事は知ってるよな?』

『うん。でも龍二のお母さんが、愛犬を亡くしたときの悲しみを龍二たちに味わって欲しくないから飼えなかったんだよね?』

『そう。でも‥ペット‥飼ってみたいな~と最近思い始めてさ‥』

そう言いながら、ゆっくりと陽菜のいる方に顔を動かした。

『ま、まさか‥ね?』

陽菜は笑っていた。冗談だと思っているに違いない。でも、額と鼻の頭に光るものが見えた。龍二は、何も言わずに黙って返事を待っていた。

こいつはドSだな。
好きな子に「好き」って言えないタイプだ。その上、自分に好意を持ってもらうために、わざと本心とは違う言動をとって注意を引く。遠回りをしている事に気付かない。

「ふっ」思わず笑ってしまった。

やっぱり憎めない奴‥


俺は黙って二人の様子を見守っていた。
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