忘れられない人
31日の8時くらいに駅前に集合したんだ。
竜児は、もっと早くから逢いたいって言ってたんだけど‥私の気持ちは離れつつあったから気付かれないように距離を置こうと思ったの。距離を置けば、その間にあの人の事は忘れられると思って。

だから7時までバイトって事にして‥


駅から目的地までは、歩いて30分くらいだったから、それまでゲーセンで時間を潰すことにしたんだ。

竜児、UFOキャッチャーとか苦手なのに、私が欲しいって言ったものを取れるまで何十回も挑戦してくれてね。それでようやく取れたぬいぐるみを私にプレゼントしてくれたの。「俺からのお年玉」なんて照れながら。

私は「大切にするね」って言って、そのぬいぐるみを大事に抱きかかえてたの。


その後もね、しばらく店内を2人で歩いてたんだ。そしたら‥ある場所で竜児が足を止めてね。何か欲しいものでも見つけたのかな?って思って近づくと‥そこには、おもちゃの指輪があったんだ。

「これ、絶対に取るから!!そしたら指にはめてくれる?」って言われて‥


私は戸惑った。
だって、同じモノがバッグの中にあったから。1回もはめることなく箱に終われたままの状態で。

そんな事、竜児には言えないから、私は「頑張って」って思ってもいないことを言っていたの。本当は、取って欲しくなんてなかった。私の指にはめたくなかったの。


私がそんな風に思っているとも知らず、竜児は頑張って何度も挑戦してたよ。たぶん‥最初に取ってくれたぬいぐるみ以上の金額を費やして。

でも、結局取ることが出来なかったんだ。

竜児は何度も「ごめん。ごめんね」って誤ってたけど、私は取れなかったっていう結果に安心してたの。私の指に、はめられることはないんだって‥


その後ね、
「プリクラ2人で撮らない?」って聞かれたんだけど、私は断ってしまったの。これ以上、思い出の品を作りたくなかったから‥


この時、竜児がようやく気付いたの。私の様子がいつもと違うって事に。

それでもね、竜児は気付かないフリをしてくれたの。それを言ったら、私たちは別れてしまうって事が分かったみたい。


どれだけ辛い思いをさせていたんだろう‥私は‥
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