忘れられない人
持っていたぬいぐるみを強く抱きかかえるとね、竜児が「もう行こっか?」って聞いてきたんだ。だから私は頷いたの。そして、ゲーセンを後にして目的地に向かって歩き出したんだ。

二年参りを目的に来ている人がね、思った以上に沢山いて、凄く道が込んでいたんだ。

「早めにゲーセンを出てきたから、日付が変わる前には着けるね」って竜児が私に笑いかけてくれたんだけど‥

その時の私にはもう、自分の気持ちを抑えられなくて‥苦しくなっちゃって‥
その場に座り込んでしまったの。

竜児は慌てて近くに置いてあった椅子に、私を座らせてくれたんだ。
そして‥


今、龍二が私にしてくれたみたいに、ジュースを買ってきてくれて渡してくれたんだ。

その時、久しぶりに龍二の顔を見た。龍二は、少し切ない顔をしていた。そんな龍二を長時間見ることが出来ず、私はまたコップに目を移した。


『それで?』

久しぶりに、龍二が声を発した。

『うん‥』

私は続きを話し始めた。


さっきみたいに、一口飲んだら落ち着いてきてね。そんな私の様子をみて、竜児も安心してか私の隣に座って来たんだ。付き合ってるんだから普通の事でしょ?
でもね、私は竜児に対して警戒心を抱いたの。

案の定、竜児は私に近寄ってきて‥そして急に抱きしめてきたの。私は突然の事で驚いちゃって抵抗なんで出来なかった。

そしたらね‥急にキス‥されそうになったんだ。

私は思わず、自分の唇を両手で押さえていた。すると、龍二が私を抱きしめていた。


『大丈夫、俺がついているから』

龍二の言葉は心強かった。泣くのを我慢して話していたのに、止まることなく涙が流れてきた。


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