忘れられない人
『やっぱり‥まだ持ってたんだ‥』

龍二は、小さい箱を見つめていた。

『違うの!!同じバッグ使ってるから、入れっぱなしだっただけ』

私は慌ててその箱をバッグに戻そうとした。でも、龍二は私の手から再び箱を取り戻し、未開封だった箱を開けようとしていた。

『お願い!開けないで。お願い!!』


私の願いも虚しく、龍二の手によって簡単に開封されてしまった。


一部始終を見ていた私は、一気に落胆した。

と、同時に
当時の想いと一緒にこの箱に封印したはずの淡く苦い思い出が蘇って来た。



『これをプレゼントしてくれた人の事‥好きだったんだろ?』

龍二は、私の手をとり左手の上に箱を置き、右手で箱を被せた。私は‥その箱を強く握り締めた。


すると、龍二はもう一度確認してきた。

『‥好き‥だったんだよな?』

私は大きく頷いた。


『あの人の事‥忘れられなかった‥』

私はとうとう泣きだしてしまった。

『あの人じゃ分からない。名前は何て言うんだ?』

『リュウジ』

『え?よく聞こえなかった。もう一度言って』

『リュウジ。最初で最後の、このプレゼントをくれたのは‥リュウジなの』


龍二は私の横に座り、頭を優しく撫でてくれた。

『リュウジ‥か。どんな恋愛をしてきたのか教えてくれないか?彼氏じゃなかったとしても、そいつの事、本気で好きだったんなら俺‥知りたい!陽菜の全てを知りたいから』


その言葉を聞いて、私は手を開いて箱を見つめた。
どこから話せばいいんだろう?話したらきっと‥私たちは終わる。


それでも私は覚悟を決めてリュウジとの思い出を話すことにした。
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