忘れられない人
それからはね
彼の言うとおり、9時50分から10時くらいに店に来てくれてね。毎回、私のレジに並んでくれたんだ。

始めのうちは
「今日も来てくれてありがとうございます」とか「今日は、いつもより来るのが早いですね」とか些細な会話だったんだけど、逢う回数が増えてくると

「これから仕事ですか?」とか「声擦れてますけど、風邪ですか?」みたいに、彼の事を気に止めるような話も出来るようになってきたんだ。


ずっと、私から彼への質問が多かったんだけど、日がたつにつれて今度は、彼が私に質問してくるようになったの。それが凄く嬉しかった。バイトを毎日でもやりたい!!って思っていたくらい。

本当は、彼に逢いたいだけなんだけどね(笑)


1分でもいいの。30秒でもいいの。彼に一目逢いたい!
そんな想いが大きくなってきて‥私は思い切って、携帯のアドレスを書いた紙を渡したんだ。そしたらね‥


「名前、教えてくれない?」

って彼からメールが来たの。飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。そんな気持ちを抑えて、私はすぐにメールを返したんだ。

「陽菜です。私にも名前教えてください」って。そしたら、すぐに返信がきたよ。

「リュウジ」


その日から、メールのやり取りが始まったんだ。


ここまで話して一旦、休憩をする事にした。一気に話して疲れた事と‥リュウジとの思い出を少し頭の中で整理するために。

次に話し始めたときには、コップの中の氷は全て融けていた。
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