忘れられない人

その後はね、初めて２人で夕飯を食べに行ったんだ。緊張してて、自分が何を話したのかとか全然覚えてないんだ。とにかく、これが最後かもしれない‥って思ったら、沈黙だけは止めようって。先の事を考えるなら、今を楽しもうって‥そう自分に言い聞かせてたんだ。


食事が終わった後にね、私の家まで送ってくれたの。

「ありがとうございました」ってお礼を言って、これでお別れか‥って思ったとき、彼が

「また、逢ってくれない？」って言ってくれたの。私は嬉しくてすぐに返事をしたら

「少しは考えようよ」って意地悪言ってきたの。でもね、言葉と顔の表情は正反対だったんだよ(笑)今まで見たことのない、彼の一面を知れたことも凄く嬉しかった。



最初のデートは、映画を観に行ったんだ。あっ！デートじゃないか‥。私たちは、そんな関係じゃないもんね。

言葉にすると「彼氏彼女の関係じゃない」と言うことが身にしみてくる。それでも私は、デートという言葉を使い続けた。

映画を見た後は、バッティングセンターに行って、彼の無様な姿を見てね(笑)それはそれで良かったよ。なんか頑張っている姿が母性本能をくすぐられたの。


２回目のデートは、時間の都合上、夕飯を食べただけだったの。それでもね、私と逢う為の時間を作ってくれたって事が何より嬉しかった。それにね‥最初のデートが終わってからの彼は、たまにメールを送ってくれたり、電話をしてくれたりって‥少し私たちの距離が縮まっていたんだ。

バイトをしていた時より逢えないけど‥今度は「媒介機器」を通して私たちは繋がっていたの。これかもずっと、こんな関係が続くと思っていた。


３回目のデートは、カラオケに行ったんだ。私は、人前で歌うのが苦手だから、ほとんど彼が歌っていたんだ。楽しかったっていうより、安心‥していたのかも。もう３回目だし、２人でいても極度の緊張はなくなって、程よい気持ちで彼の隣にいられたの。

でもね、急に「罰ゲームをかけて歌わない？」って言われたんだ。ずっと彼の歌を聞いていて正直、どっちが勝つかなんて分かりきっていたけど‥楽しそうに言う彼を見たら断ることなんて出来なかった。