忘れられない人
彼は新曲に挑戦して、私は十八番を歌ったの。歌詞が女の子の「片思い」を表現しているのだったから、私は感情を込めて歌いきったの。

それでも、やっぱり結果は変わらず‥私の負け。「罰ゲーム何やらされるんだろう??」って考えていたんだ。

いつも奢ってもらっていたから、カラオケ代金を払うんだとばかり思っていたんだけどね、急に

「目‥瞑って」って言われたの。
これから何が起こるんだろう?って思ってね、彼を見ていたの。部屋には、私たちしかいなかったから、見つめていたって言った方がいいのかな?

そしたら、今度は真面目な顔で言ったんだ。「大丈夫」って。

その言葉を聞いてね、私は「うん」って頷いて目を瞑ったの。期待半分、不安半分の私は、そのときが来るまで待ったんだ。

歌い終わってしまったから、部屋の電気は点いていたけど、音楽は流れてなくてね‥時計の針の音だけが部屋の中で響いていたんだ。


しばらく待ってもね、何にも起こらなかったから「もう目を開けていい?」って聞いたの。そしたら‥その時に彼からキスをされたの。驚いて目を開けてしまったけど、嬉しかったから‥彼のリズムに合わせて私も唇をあわせたの。

彼との初めてのキスは、ほんのりオレンジの味がした。


その日の帰りにキスをしてから、私たちは別れるときはキスをするのが習慣になっていたの。最後に逢った日まで、この習慣は続いていた。


龍二の様子を伺うために、ここで話をとめた。龍二は、窓に向かってタバコを吸っていた。私の目には、何処か遠くを見つめているようにも見えた。しばらくすると、私が話を止めたことに気がついた。

『それで?』

『えっ?』

『だから、その先の話』

『まだ‥聞くの?だって、その先は‥』

私は黙り込んでしまった。だって、その先の話は龍二に話していいのかどうか、ずっと悩んでいたことだから。

『俺の事を思って話止めてくれたんだろ?でも、俺は全てを知りたいから。俺なら大丈夫だから話して』

『わ、分かった。ここからは簡単に話すね』

私は話を始めた。



4回目のデートは、彼の買い物に付き合ったの。「部屋の模様替えがしたいから」って言われたから‥一緒に付いて行ったんだ。
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