忘れられない人
店の専用駐車場には沢山の車が止まっていたの。中に入らなくても、人の多さが想像できたくらい。

彼は人ごみが嫌いだから、今日はこのまま違う場所に行くんだと思っていたの。でもね、休みは今日くらいしか取れないから‥って言って私たちは車を降りて店の中に入ったんだ。


予想通り、店の中は沢山の人でいっぱいだったの。どの方向を向いても人が目に付いてね。まるで何処かの遊園地にでも来た感覚だった。

よく見るとね‥家族ずれより、カップルの方が多かったように思う。「私たちも周りからそう見られてるのかな?」なんてワクワクしていたもん。でもね‥さすがに手を繋ぎながら彼氏に引っ張られている女の人を見ると、心が痛んだの。私にもあんな風に出来る日が来るのかな‥なんて思っていたんだ。

そんな事を考えているとね、彼が私を呼んだの。「こっち」って。
いつの間にか遠くに彼がいたの。

でも、人が多すぎてなかなか近づけないでいると、彼から私の方に近づいて来てくれてね。何も言わずに私の腕を引っ張ってくれたの。


恋人たちみたいに手なんて繋げなくてもいい。
ただ‥こうしていられるだけで幸せを感じていたの。


その後は、彼の欲しい家具とかを一緒に見て回ったりしたんだ。彼は、モノクロばっか選ぶから、私は「一つくらい違う色の物が部屋にあったっていいじゃん!」って、私の趣味を押し付けていたんだ。

でもね、彼は面倒くさがらずに、私の意見もちゃんと聞いてくれてね。そういう所が、私と違って大人だなって思ってた。そして、そんな所に私は惹かれていったの。


いろいろ見ていたんだけどね、彼は電気スタンドの前で立ち止まったんだ。そしてね「どれがいい?」って私に聞いてきたの。

それも可愛くて一つに絞るのが大変だった。でもね、今まで一緒に見てきて、彼の選んだものを総合してみると「これかな?」って思うものがあったんだ。だから「これ」って指を指したら、彼は嬉しそうに「俺も」って言ったの。


しばらく選らんだ電気スタンドを見つめているとね‥

「ここでちょっと待ってて」って言って、店員さんを呼びに行ったんだ。その間私は「家に招待されるかもね」って電気スタンドに向かって微笑んでたの。
< 29 / 140 >

この作品をシェア

pagetop