忘れられない人
しばらく車が走ってからね、また頭が痛くなってきたの。夜も遅かったし、今更病院にも行けなかったから我慢してたんだ。そしたらね、私の異変に気付いてくれて、近くの公園に連れて行ってくれたの。

外の空気を吸ったら、さっきよりは良くなったから「もう大丈夫」って言って、そのまま家に帰ろうとしたんだ。でもね、彼は「心配だから近くにいる」って私をまた車に乗せたの。

私はね、今の言葉が聞けただけで本当に良かったんだよ。「心配してくれてありがとう」って何度も思った。でも、彼は納得してくれなくて‥


そしてね、ある場所に着いたんだ。

「ここは?」って聞くと、「俺の家」って。
確かに、一人暮らしをしてるとは聞いていたけど‥まさか、こんな形で来るなんて思いもしなかったから、いつの間にか頭の痛みなんて吹っ飛んでいたの。

私が緊張しているのが分かったのか、「頭痛治ったみたいだな」って笑いながら言ってきてね。悔しかったから「そんなに痛くなかったの」って言い返したの。彼は「そっ」って言いながら笑い続けてたんだ。

そしてね‥

「どうぞ」って私を家にあげてくれたの。


最初はね、なんとも思っていないフリをしていたんだけど‥部屋の中に入って「適当に座ってて」って言われたときは、緊張も頂点に達してたんだ。「ど、どうすればいいんだろう」って。

挙動不審な態度の私とは違って、彼は平常心を保っててね‥私に話しかけることもなくテレビを見ていたんだ。そんな彼の態度を見て「彼は私の事なんて何とも思っていないんだ‥」って、その時分かったんだ。


じゃあ‥

どうして私を家にあげたの?
どうして私の事そんなに心配してくれたの?
どうして私と逢ってくれるの?

ねぇ‥どうして?


私は出口のない迷路に迷い込んでしまったの。
< 31 / 140 >

この作品をシェア

pagetop