忘れられない人
確かに龍二の言うとおり、私と彼は絶頂の中にいたのかもしれない。本気か冗談なのか分からないけど‥

「部屋、空いてるから使っていいぞ!!」なんて言ってくれたり、始めのうちは「絶対に部屋にはぬいぐるみは置かない」って言い張っていたのに‥いつの間にか、私が持ち込んできたぬいぐるみを部屋に置いてくれていたの。

知らないうちに、彼は私のペースに巻き込まれていたのかもね。


でもね、恋愛には波があるって知ってた?私たちにも試練が訪れたの。それは私の「進路」と、彼の異動。

ほぼ同じ時期にやってきたんだ。


私はね、大学進学を視野に入れていたし、彼と離れたくなかったから大学も県内を選んで、学校推薦を頂いたの。

彼もね‥異動って言っても県内だと思っていたんだ。だって、チェーン店だし県内にも山ほどある会社だったから。


でもね、彼から聞かされた言葉は「県外」だったの。逢えない距離ではないけど‥近い距離でもなかった。こんな風に、いつも一緒にはいられない‥。

そんな現実を受け入れるのにどのくらいの時間を費やしただろう?


ある時、私は決意したの。
「大学に行かないで就職しよう!」って。それも彼が異動になった県に。

でもね、現実はそう甘くはなかった。一般入試で入学するのなら、何の問題もなかっただろうけど‥私は学校推薦で入学が決まっていたから、今さら白紙に戻すことなんて出来なかった。


その事をね「彼に話さなきゃ。話そう!!」っていつも思っていたんだけど、中々切り出すことが出来なかった。だって‥それを言ったら今の関係も終わってしまうんじゃないかって不安だったから。


いつまでも隠し通せることじゃない。

そんな事分かっていた。でもね、もう少しだけ‥もう少しだけ今の関係でいさせて。

私は神様にお願いしたの。


神様は私の願いを叶えてくれたのかな?本当に少しの間だけど、私は彼と一緒にいることが出来たの。でもね、それと引き換えに、私の身に異変が起きたの。

「そういえば生理が来ていない‥」


もちろん不安もあったよ。でもね、ずっと一緒にいられるのかも‥あの頃の私には、その方が嬉しかった。

私は、彼を愛していたから。
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