忘れられない人
『よう!!』

タバコを吸っていた人は、私に微笑みかけた。あの頃とは、服装や髪型が変わっていたものの、私に向けてくれる笑顔だけは‥あの頃のままだった。彼は、時計に目をやり

『来るの早くないか?って、俺もか』

そう言いながら、また笑った。懐かしさのあまり涙が止まらなかった。


『相変わらず泣き虫だな‥』

少し呆れた顔をしながら近づいてきた。私は金縛りに合ったみたいに、その場から動くことが出来なかった。すると、私の髪を救い上げ


『長い髪の方が似合ってる』

そう言って、何度も何度も私の髪の毛に触れた。リュウジは昔から、私の髪の毛を触るのが好きだった。


『長い髪の方がって、短い髪見たことないでしょ?』

だって、リュウジが好きだった長い髪は‥リュウジと離れ離れになった時に切ったから見ていないと思っていた。なのに‥


『見たことあるよ。俺、一度こっちに戻ってきたことあるから』

今度は、本当に金縛りにあった。生まれて初めての‥
体が動かない‥瞬きすら出来ない‥

私は、リュウジを見つめた。


『そんなに見るなよ。恥ずかしいだろ』

リュウジの手は、私の髪から目に移動していた。


『ちょっ、前が見えない。手‥退かしてよ』

『少し待ってろ』


リュウジの手から熱が感じられた。脈も‥早い?


『もしかして‥緊張してる?』

『バッ!!』

そう言って、やっと手を離してくれた。リュウジの顔は真っ赤だった。私は思わず笑ってしまった。そんな私を見てリュウジも照れながら笑った。


『外じゃなんだし、何処か行って話さないか?』

『じゃあ、あと着いていくね。私車で来てるから』

『いいよ別に。俺の車乗ってけよ』

『あっ、‥うん。分かった』


久しぶりにリュウジの車でドライブに出かけた。

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