忘れられない人
今走っている道は仕事に行くときに通る道なのに、助手席に座っているだけで景色が全く違って見えた。毎日見ていたはずなのに新しい発見がいっぱいあった。私は、目を輝かせながら見ていた。

そんな私をチラチラと横目で見ながら、リュウジは笑っていた。


『外に何かあるのか?』

『何で?』

『だって‥なんか楽しそうだから』

楽しそう‥か。リュウジの目には私はそんな風に映っているんだね。
確かに楽しいよ。でもね‥本当は緊張しているから‥なんだよ?ずっと逢いたかった人が隣にいるのに‥落ち着いてなんていられるはずがないじゃない。

どうしたらいいのか分からないから‥こうして外を見ているんだよ?そんな私の気持ちに‥気付いて。

そんな事思っていたって仕方がないことくらい分かっている。でも期待してしまう。リュウジなら‥って。


『お腹空いてるか?』

突然、リュウジが聞いてきた。

『えっ!?あっ、ううん。さっき家で食べたから私は大丈夫だよ。でも、リュウジは帰って来たばかりだからお腹空いてるよね?この辺って何かあったっけ?』

私は再び外を見て、飲食店に注意しながら目で追った。


『お腹空いてないなら、俺連れて行きたい店があるんだけど。そこでいい?』

『うん。いいけど‥』

『じゃあ、決まりな』

リュウジは右にウインカーを出して、さっき通った道に戻った。何処に連れて行ってくれるのか、少しドキドキしながら景色を見ていた。

そして、ある場所に着いた。


『着いたぞ』

私たちは車から降りた。

「ここって‥」心の中で思っていると、リュウジはさくさくと歩き出した。私は思わずリュウジの腕を引っ張って歩くのを止めた。


『一つ聞いていい?えっと‥右と左‥どっちの店に行くのかな?』

『左だけど?ほら行くぞ』

『うん‥』

私はリュウジの後ろに隠れるようにして歩き始めた。
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