忘れられない人
『信じてないかもしれないけど‥本当にこの店に来たのは、今日が初めてなんだ。コーヒーが美味しい店って言うのは聞いてたんだけど、さすがに一人じゃ来れないだろ?』

『じゃあ、彼女と来ればいいじゃん』

それを言った後、「しまった!!」と思い、慌てて口を押さえた。でも‥リュウジにはしっかり聞こえていた。


『彼女か‥そうだな。いたら今みたいに来ていたのかもしれない‥』

リュウジは寂しそうにコーヒーを飲んだ。

それって‥彼女はいないって事?
今も‥そして昔も‥


聞いちゃいけない!!
そう思ったけど、どうしても聞きたい。

私は、嫌われることを覚悟で聞くことにした。


『それって‥今は彼女がいない‥って事なの?』

するとリュウジの手が止まった。

『お前って、直球で聞くんだな。もっと言葉を濁して聞けよ!!かなり落ち込むわ』

そう言って私の髪の毛をクシャクシャとしてきた。


「ごめんなさい‥」そう言いたかったけど、言ったら余計惨めだから‥とか言われると思ったから何も言わなかった。


しばらく人形のように素直に従っていた。すると、リュウジの手が止まった。

『そっちは?今彼氏いるのか?』

今度は私に聞いていた。
今、一番聞かれたくないことを‥。

知られたくない‥。
これだけは‥知られたくない。

だから言わなかった。でも、そんな私の態度で分かってしまうのがリュウジだった。


『そうか。よかったな』

しばらく沈黙が続いた。


何を話せばいいんだろう?
私は何を期待していたんだろう?
どうして‥彼女がいないって分かって複雑な気分でいるんだろう?


頭の中で、いろいろな問いかけが駆け巡った。
一つ一つ解決していこうと決意したとき、リュウジがまた私に聞いていた。

『そういえば、メールで言ってた話ってなんだったんだ?』

『あっ、うん。その事なんだけどね‥』

私は、コーヒーではなく、水を口の中に含んでから話し始めた。

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