忘れられない人
『初めてお前と逢ったのは、声をかけるずっと前からだったんだ。いつも従業員とかパートの人なのか?に怒られてて可哀想な奴‥くらいにしか思っていなかった。でも、日が経つにつれてレジとか上達していくようになって、いつしか話してみたいと思った。

でも、俺はただの客だし、どうすることも出来なかった。そんな時だ。お前の苦手な分野を見つけたのは』

『苦手な分野?』

『そう。ずっと見ていて、お前はタバコを覚えるのが不得意だってことに気付いたんだ。だから、タバコを理由に話しかけて、銘柄で俺の印象を強めようと思った。』

『それであの時‥』

『結果、見事成功。それ以来、俺達はよくしゃべるようになったよな?』

『うん‥』

『いつも心配していたのは、終わる時間が遅いって事だ。あの時間はよく、変な奴の溜まり場になっていたからな。いつも心配してたんだぞ。案の定お前は引っかかった。あの時は間一髪だったな』

『そう‥だね。ありがとう』

『いいえ‥それから‥』


リュウジは話すのを止めた。

どうしたんだろう?何か、言うのを躊躇っている様に見えた。本当は話したくないのに‥私が無理やり聞きだそうとしているのかも‥
苦しそうなリュウジを見ていたら、私まで苦しくなってきた。


『ごめんね。話したくない‥よね。もういいよ。今度は私の話を聞いて?あの頃言えなかった私の気持ち‥』

『イヤ、俺が先に話し出したんだ。最後まで聞いてくれ。この先の話は、お前には少し辛い思いをさせるかもしれない‥それでもいいか?』

私は躊躇いもなく、素直に首を縦に振った。


『そうか‥じゃあ、続きを話すな‥』

今も少し、リュウジは苦しそうだった。

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