忘れられない人
『実は‥あの頃、俺には付き合って3年にもなる女がいたんだ。この年で3年も付き合うと、女は結婚を意識しだした。でも、俺にはやりたいことがあったから今は無理だと正直に言ったんだ。

初めは納得してくれて待つと言った。なのに次第に「両親に逢ってくれだの、不安だから同棲しよう」などと言う様になった。

俺のやりたいことって分かるか?』

『えっと‥仕事‥だよね?』

『そうだ。詳しいことは言えないけど、あの頃の俺は大きなプロジェクトを任されていて、一番忙しいときだったんだ。にも関わらず、女は俺の気も知らないで頻繁に家に泊まりに来るようになった。「お前には熱中できることはないのか?」って次第に腹が立つようになった。

一緒にいても喧嘩になるだけ‥そう思って、俺は家を出たんだ。そして会社に寝泊まりする日々が続いた。


初めのうちは、スーパーとかに行って買い物をしていたけど‥次第に面倒くさくなってきて、いつしかコンビニ通いになった。その時に‥』

『私に逢ったの?』

『そうだ。さっきも言ったけど、最初は可哀想な奴‥くらいしか思っていなかった。でも、何を言われても我慢して努力しているお前を見て、惹かれるものを感じた。話したいと思った。

話が出来たときは凄い嬉しかったし、お前からアドレスを書いた紙を貰ったときは本当に嬉しかった。

コンビニで逢っても何気ない話しかしなかったよな。それでも、俺には落ち着ける唯一の時間だった。頑張っている姿を見ると、俺も頑張ろうって勇気をもらえた』

『私だって‥リュウジと逢っていた時間は凄く大切だったよ』

『ありがとう。でも、俺は最低だよな。女がいたのにお前とも逢っていたなんて‥

だから俺は女に別れを告げた。他に気になる奴が出来たって。最後は呆気ない終わり方だったよ。説得に時間が掛かると思ってたのに、すぐに納得してくれた。それどころか「薄々感じてたよ」って笑いながら言われた。俺って最低だよな』
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