忘れられない人
『もう‥着いちまったな‥』

『そう‥だね。今日は一緒にいられて本当に楽しかったよ。ありがとう』

私はドアに手を当てて車から降りた。すると、リュウジも車から降りて私に向かって叫んだ。


『またさ!!』

私は声に反応して後ろを振り向いた。リュウジは携帯を片手に続けて叫んだ。


『また逢ってくれるかな?‥もちろん二人でだけど‥』

『えっと‥』

ここで拒否したら、もう二度と逢えない気がした。龍二の悲しそうな顔が頭に浮かんだけど、それでも私はもう一度だけでいい!リュウジと逢いたかった。だから‥

『いいよ。連絡してくれたら‥私‥』

素直にそう答えた。でも、それを聞いてリュウジは苦笑いをしていた。


『ありがとう。お前は優しいから、絶対いいって言うと思ったよ。俺の気持ちを知りながら逢ってくれるって‥なんだか複雑だな。って、誘ったのは俺か‥』

私は何て言ってあげればいいのか言葉が見つからなかった。


『今日はありがとう。また連絡するから‥じゃあな』

そう言ってリュウジは私の前からいなくなった。
しばらくの間、私は呆然とその場に立っていたけど、風が冷たかったので自分の車に戻った。助手席には、ビニール袋が置いてあった。


『何買ったんだっけ?』

私は袋の中を覗いた。すると缶コーヒーが中に入っていた。

『これ‥リュウジがいつも買っていたのだ‥‥』


もう冷めてしまった缶コーヒーを掴んで、今日の出来事を思い返していた。

龍二に内緒で逢ってしまった。そして、また逢うことを約束してしまった。
結局私は何がしたかったんだろう?あの頃の気持ちを聞いて、私はリュウジの彼女になりたいの?それとも、龍二の彼女のままでいたいの?


今の状態を続けることは、両方を傷つける事くらい私にも分かっていた。でも、どちらか一人を選ぶことなんて出来ない。私には‥両方が大切な人だから‥


でも、決断の日が刻々と迫っていたことに私はまだ‥気付いていなかった。
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