忘れられない人
『実はな‥今日、会社の上司に言われたことなんだけど‥俺、異動する事になった』

『えっ!?い‥どう??』

『あぁ‥』

『何処に?何県に行くの??』

『それが‥海外なんだ』

『海外って‥』

『陽菜も知ってると思うけど、俺の勤めてる会社って海外進出を近年から始めただろ?それで、新しいプロジェクトチームに若い人材が欲しいって事になって、俺が推薦された。たぶん独身っていうのも大きいんだと思う』

『海外に行くって‥もう決めちゃったの?』

『まだ悩んでる。でも、行きたいって気持ちの方が強いかな?』

『行くとしたら‥いつ行くの?』

『1ヵ月後には日本を発つかな』

『そんなぁ~‥』


急の出来事で、私の頭は混乱していた。

龍二が海外に行ってしまう?私より仕事を選んで‥
家族や恋人よりも、地位や名誉の方が大切だって事?
海外に行ってしまったら簡単には逢えなくなっちゃうんだよ?
それでもいいの?


龍二に言いたいことは山ほどあった。でも、あり過ぎて何から言えばいいのか整理がつかなかった。そんな時‥


『大事な話だから、一番に陽菜に話したかったんだ。陽菜はどう思う?俺についてきてくれるか?』

『どう思うって言われても‥私にだって仕事もあるし‥全てを投げ捨ててまで龍二と一緒には‥』

『ついて来れないよな?』


『一人で考えさせて‥‥いつまでに結論が出ればいいの?』

『そうだな‥二週間以内には‥』

『分かった。一人で考えてみる』

『ごめんな』


龍二は帰って行った。私は放心状態のまま自分の部屋の中にいた。記憶があるのは、龍二の話の内容と部屋に入って一時間が経過した今、この瞬間だった。空白の一時間‥私は何をしていたんだろう?こんな風に、ただ呆然と椅子に座っていたのだろうか?


私は、無意識に携帯の着信履歴の一番上の人に電話をかけていた。
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