忘れられない人
『もしもし?』

電話の向こうから男の人の声が聞こえた。

『えっ!?リュウジ?どうしたの?何か私に用事でもあるの?』

『はぁ~?お前から電話してきたんだろ?おい大丈夫かよ‥』

電話越しでも分かる。リュウジは今、私に対して呆れているという事が‥


『ごめんなさい‥』

私は自分の非を認めた。

『まっ、いいけど。俺も電話しようか悩んでいた所だったし』

『そうなの?何か忘れ物?』

『お前をコンビニに置いて来た(笑)』

『何それ~(笑)』


久しぶりに笑った。
さっきまで、あんなに悩んでいたのに‥リュウジと話をしていたら、どんな些細な会話でも笑うことが出来た。リュウジは私を笑わせてくれる魔法使いだと思った。


その後も、私がコンビニでバイトをしていた頃の話とか、リュウジの仕事の話とかを朝方までずっとしていた。一緒にいる時は、緊張してたせいか上手く話せなかったけど、電話でなら何でも話せた。

離れ離れになっていた時間を‥一日で埋められるくらい沢山話をした。ただし「龍二」の事を除いては。

リュウジは、私の彼氏の事には触れなかった。だから私も言わなかった。ただそれだけの事。聞かれれば話そうとは思っていたけど‥聞かれる前に、私の口から話すことではないと思った。だって‥リュウジの気持ちを知ってしまったから。


私は、こんな事を考えていた。
「どうしてこんなに長時間、リュウジと電話をしているんだろう?」と。

私の悩みを聞いて欲しいから?
でも、龍二の異動の話はしていない。それは、単に相手がリュウジだから相談できないだけなの?

それとも、リュウジの声が聞きたいから?リュウジの事が知りたいからなの?



私が好きなのは‥どっちなんだろう‥?

自分の気持ちが分からない‥
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