忘れられない人
私の気持ち
決意を決めた日は、今までに見たこともないような空だった。

透き通るような空。
何もかもが許される空。そして‥

大切な人が遠くに行ってしまう事を思わせるような空だ。それでも私は前に進まなければいけない。重い足を持ち上げ、駐車場に向かった。


車の中ではラジオが流れていた。普段なら聴こえてくる程度の音量だが、今だけは‥何かに集中していたかった。何でもいい。現実から逃れられる何かに‥

徐々にボリュームを上げていった。今流れているのは、高校の学祭のテーマ曲になっていた曲だ。今の気分とは正反対な、明るくて楽しくなるようなメロディーだった。

始めは違和感を感じていたが、聴いているうちに当時の思い出が蘇って来て体が反射的に動いていた。運転中のため激しい動きはできなくても、足でリズムを取ったり、左手でハンドルを叩いたりすることは出来る。

私の車の中は、約3分間ライブ車の様になっていた。


曲が終わった後、ラジオから聞こえてきたのは、男の人と女の人の会話だった。二人は、今流れていた曲について熱く語っていた。音量を下げていないのに、会話が耳に入ってこなかった。その時の私は、高校のときの友達のことを考えていた。

「みんな元気かな??」

卒業してからは、仲の良かった人くらいとしか逢っていなかった。私のクラスは同窓会もなかったので、卒業後の事は全くと言っていい程知らなかった。たぶん就職してるよね?結婚していて子供がいたって可笑しくないよね?

想像するだけで楽しかった。


車を走らせていると、前の信号機が赤に変わったので車を止めた。すると、私の車が先頭車だった。

横断歩道を自転車で渡る高校生を見ていると「私にも制服を着ていた時期があったんだよね」と懐かしくなってきた。高校生が渡りきるまで当時の私とダブらせて見ていることで現実から目を背けていた。


しばらく待つと、信号機の色が赤から青に変わったので車を走らせた。

ラジオから聞こえてくるのは、まだ男の人と女の人の会話だった。
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