忘れられない人
その後、何人かのリクエスト葉書を読み終わり、ラジオ番組は終盤を迎えていた。男の人が次回の放送日を伝え、女の人は次回の目玉を伝えていた。


『あのさぁ~』

龍二が私に話しかけてきたとき、ラジオ番組が終わった。

『何?龍二』

『そろそろ目的地‥教えてくれない?俺ら何処に向かってるの?』

『連れてきたかった場所は‥ここだよ』

『ここって‥』

そう、龍二と一緒に来たかった場所は「コンビニ」だった。私は駐車場に車を停め車から降りた。「何か欲しいものはある?」と龍二に聞いたけど、首を横に振った。

私は一人で店の中に入り缶コーヒーだけを買って店を出てきた。


『龍二はブラックでいいんだよね?』

『あっ!‥ありがとな』

『いいえ』

同時に缶の蓋を開け一口飲んだ。


『ここってさ‥リュウジって奴との思い出の場所だよな?そこに俺を連れてきたって事は、陽菜が選んだのは‥』

龍二の声を掻き消すように私は話し始めた。

『私ね、あの人の事忘れようと本当に努力したんだよ?でも簡単には忘れられなかった。今でも心の隅で彼の事を考えてしまうの。ごめんなさい‥』

『いいや‥そうか‥』

龍二はブラックコーヒーを一気に飲み干した。そして、左手の掌で口についたコーヒーを拭い取った。

『話はそれだけ?』

『ううん。他にも話さないといけないことがあるの‥』

『いいよ。何でも聞くから話して?』

『うん‥』

私もコーヒーを一気に口に含んだ。
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