忘れられない人
『私ね、龍二に隠していたことがあるの。少し前に‥あの人と二人で食事に行ったの。今まで黙っていて本当にごめんなさい』

私は、飲み干した缶を両手で掴んで見つめた。


『どうして話す気になった?黙っていたら俺気付かなかったのに‥』

『龍二には‥隠し事をしちゃいけないと思ったから。ううん。したくないって思ったから‥だから全てを聞いて欲しくて‥』

『そっか。それで他に俺に言いたいことは?』

『あの人と逢う事になったとき、龍二に連絡しようと思った。でも‥二人で逢いたいって気持ちもあって、それで内緒で二人で逢いました。そして‥』

『そして?』


『当時の私への気持ちを聞いたの。ずっとね、聞きたいって思っていたから‥‥。どうして私と一緒に同じ時間を過ごしてくれたのかとか。

今さら‥かもしれないけど、私にとっては凄く大切な事で、あの人に好きだったって事を伝えたかったの。ずっとずっと言いたくても言えなくて‥苦しかった思いを』


『ちゃんと気持ち伝えられた?』

私は大きく横に首を振った。

『じゃあ、彼の気持ちは聞けた?』

今度は縦に首を振った。

『好きだったって?それで、今でも好きだって言われたんだ‥』

私は驚いて龍二を見つめた。


『今、陽菜が思っていることを当ててやろうか?「何でそれを知ってるの?」って思ってるだろう。それはな、言葉にしなくても陽菜の事なら何でも分かっちゃうんだよ(笑)』

そう言って私のおでこにデコピンをしてきた。


『それで、いつ自分の気持ちを伝えるんだ?』

さっきまで子どもみたいにはしゃいでいたのに、急に大人っぽい態度で私に接してきた。
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