忘れられない人
言葉や仕草は大人っぽいのに‥龍二の目は今にも泣き出しそうだった。そんな彼を今すぐにでも抱きしめてあげたかった。支えたかった。でも‥私の気持ちをあやふやにしたまま接してはいけないと思い‥我慢した。


彼の目を見ることが出来なかったので、下を向いて言った。

『これから‥

今日、逢う約束をしたの。そこで私の気持ちを伝えようと思ってる』


『そっ、そっか‥』

龍二は上を向いて車の天上を眺めながら聞いてきた。

『なぁ~陽菜。お願いがあるんだけど‥いい?』

『‥うんいいよ。何?』

『一分でいい。今、この場で抱きしめてもいいか?』

『‥いいよ』

私が答えたのと同時に龍二の腕が、私の腰にまわって来た。


『俺‥陽菜以上に好きになる女は絶対にいないと思う。それくらい好きだ!!でも、陽菜が幸せになることを‥俺は望んでいる。その相手が俺じゃないのは悔しいけど‥でも、その男なら絶対に陽菜を幸せに出来ると思う。

陽菜だって気付いているはずだ。傍で支えてくれていたのは俺じゃなくて、そいつだったって事を。陽菜の心の中には、いつもそいつがいた。いつか忘れさせてやろうって思っていたけど‥ダメだった。そいつの存在がでか過ぎた。

でももういい。陽菜の気持ちが聞けたし、心置きなく海外に行ける。本当は一緒に来て欲しかったけど‥

これからは仕事が恋人だ!!陽菜は幸せになれよ。じゃあな』


龍二は私から離れてすぐに車から降りた。私も慌てて車から降りて龍二を追いかけた。でも‥追いつけなかった。視界がぼやけて龍二の居場所が分からない‥

『龍二‥!!』

私はその場に泣き崩れた。
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