忘れられない人
『初めて家に行ったときは本当に緊張した。でもね、心のどこかで‥期待‥していたんだと思うの。キス以上の事を。でも、あなたはテレビに夢中で私の事なんて眼中にないって感じで‥そのとき悟ったの。「あっ、私の事なんてなんとも思っていないんだって」

ショックだった。心も私のものにしたかったから‥好きだって‥愛してるって言って欲しかったから。でも、それって私も同じなのよね?あなたに言葉で気持ちを伝えていなかったから‥

気持ちを伝えていれば何かが変わっていたのかもしれない‥変わらなかったとしても言葉にすればよかった。そうやって自分を責めて責めて、ずっと悩んで苦しんだ。


その後、しばらく逢わなかった時期があったでしょ?あれはね‥実は生理が遅れていたの。もしかしたら‥って思ったら怖くて逢えなかった。言えなかった。でもね、この子のお陰であなたを縛り付けることが出来るってどこかで思っていた。』

『じゃあ‥?』

私は首を横に振った。

『単に、ストレスが原因で遅れていたの。その頃、あなたとの事と進路の事で悩んでいたから‥‥。』

私は下を向いてお腹に手を当てた。

『もし本当にここに命が誕生していたら‥私‥迷わず産んでいたよ。きっとあなたに言わずに一人で育てていたと思う。迷惑‥かけたくなかったから‥』

すると、リュウジは私の両肩を掴んで怒鳴りつけてきた。

『どうしていつもお前は自分で勝手に決めるんだよ!!俺がおろせとか言うと思っていたのか?』

『‥‥‥』

私の反応を見て落胆していた。そして、右手を私のお腹に持ってきてゆっくり擦った。


『きっと、お前に似て天然な女の子だったんだろうな。俺の子供か‥』

そう言うリュウジの表情はさっきとは別人で、凄く優しくてお父さんのような顔をしていた。
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