忘れられない人
『覚えてる?』

『‥あぁ。まだ持っていてくれたんだ』

『うん。これだけ‥ずっとバッグの中に入れていたの‥』

二人で小さい箱を見つめていた。小さいけれど、その中には収まりきれないほどの思い出がいっぱい詰まっている。その箱を開ければ二人の過去を思い出す。でも、これを開けなければ私たちは、いつまでたってもこのまま‥

私には開ける事が出来なかった。開けたら‥その先に待っているのは‥

リュウジは、そんな私の気持ちに気付いていた。気付いていたのにも関わらず、自らの手で未来へ繋がる箱を開けた。


『綺麗だな』

『そうだね‥』

久しぶりに見た指輪は、今まで見たどんな指輪よりも輝いて見えた。どんな高価なものよりも輝いて‥見えた‥。眩しくて、視界がぼやけてきた。

『あれ?可笑しいな。なんかよく見えなくなってきた。どうして‥だろう‥可笑しいよ‥』

『全く‥そうやってすぐ泣く』

リュウジは自分の肩に私を抱き寄せた。リュウジの涙は零れ落ちる事はなかったけど、私の心に届いた。私の涙はリュウジの心に届き、頬を伝って指輪にも届いた。


「ありがとう。ありがとう」そう、心の中で何度も何度も叫んだ。
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