忘れられない人
深夜と言うこともあり、すれ違う車は数台しかなかった。この道路を私たちが貸し切ったみたいに信号につかまることもなく、私たちはドライブを楽しんでいた。


車を走らせること1時間。

『次の交差点を右に曲がって』

『次の信号は左』

龍二に案内されるまま運転をしているとある場所に辿り着いた。

『ここって‥』

『そう、俺の家。渡したい物もあるし、少し寄ってかない?』

『でも‥』

私は少し躊躇していた。龍二と付き合って3ヶ月。一度も彼の部屋に入ったことがなかった。いつも「次の日、仕事が忙しいから」という言い訳をして、日付を挟む事を避けていた。でも‥今回はそうもいかない。

もう終電はないし、私の車は家だし‥それに龍二はビールを飲んでいるから運転は出来ない。迷った挙句、

『少し‥なら‥』

承諾してしまった。
龍二は私の手を掴んで「部屋1階だからすぐだよ」と言いながら案内してくれた。


『ここが俺の部屋』

龍二はポケットから鍵を出して扉を開けてくれた。扉のすぐ近くに部屋の電気をつけるスイッチがあり、足元が分かるようにと付けてくれた。

『どうぞ』

私は、恐る恐る部屋に足を踏み入れた。

『お邪魔します‥』

龍二は、警戒しながら部屋に入る私を見て笑っていた。

『大丈夫だよ。何もしないから、今日は(笑)』

それを聞いて少し安心した。


玄関のすぐ先にはトイレとお風呂があった。その奥に小さな台所。廊下を挟んで右側の奥に6畳の畳の部屋と、手前に6畳のフローリングの部屋があった。


『龍二って誰かと暮らしてるの?』

『何で?』

『だって部屋が2つあるから』

『あ~。今は俺1人だよ。昔は会社の同僚と暮らしてたけど、女が出来て出て行った。俺そっちの部屋は使ってないんだ。部屋開けてみ?』

指を差された方の部屋を開けた。

『本当だ‥何も置いてない‥』

呆然と部屋の中を見ていた。

『だろ?陽菜ならいつでも歓迎するよ(笑)』

冗談で言ったのか、本気で言ったのか、読み取ることが出来なかった。

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