忘れられない人
私は涙をふき取り謝った。

『本当にごめんなさい‥』

『何だよ急に。ってか、次謝ったらキスするって言ったよな?していいのか?』

『‥いいよ』

リュウジの手が、私の両肩に乗りかかってきた。私は目を瞑りリュウジが近づいてくるのを待った。お互いの息がかかる辺りでリュウジの動きが止まった。そして、両手で私の目を擦った。

『どうし‥』

今まで気付かなかったけど、滝のように涙が零れ落ちていた。
リュウジは私から離れて遠くを眺めていた。私は出来る限り声を押し殺して泣いた。


『もう分かってるから‥‥からかったりして‥ごめんな‥』

『分かってるって‥いつから?』

『そうだな‥食事に行ったときに薄々感じて、その後に電話がかかってきたときに‥かな』

『そう‥だったんだ‥』

私は再び指輪を見つめた。


『リュウジに逢いたいって思っていたのは本当よ。忘れようとしたけど忘れられなかったのも‥本当。
これをね、この指輪を持っていればもう一度逢えるような気がした。だから何年も持ち歩いてたの。

リュウジに逢って、あの頃の私への気持ちを聞きたかった。そして私の気持ちを聞いてもらいかった。沢山の思い出を‥ありがとうって言いたかったの』

『俺も、お前に出逢えて本当に良かったって思ってる。俺の手で幸せにしてやれないのは悔しいけど‥‥ってか、あぁ~!!!!』

リュウジが突然叫びながら、両手で髪の毛をクシャクシャにしていた。


『ど、どうしたの?いきなり??』

『イヤ、悔しくてさ。お互い好きだったのに結ばれないなんて‥。
もっと積極的になっていれば未来なんて変えられるのになって思ったら‥‥

俺、今まで何やっていたんだろう?携帯ってヤツがあるのに』

『そうだね‥便利なものがあっても、最後はやっぱり行動に移す「勇気」なんだろうね』

『かもな‥』

私は指輪を箱に戻して蓋をした。
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