忘れられない人
不思議と悲しみの様な感情は込み上げてこなかった。涙も流れなかった。

今度こそ‥
リュウジとの思い出を、この「箱」の中にしまうことが出来た。

次にこの箱を開けた時、もう涙は流れない。前みたいに苦しむことはない。だって今の私の心の中は、灰色から澄んだ青色に変わったから。


リュウジの事は決して忘れない。忘れるんじゃなくて「思い出」にするの。リュウジとの思い出は、これからも私の心の中で輝き続けるんだから。でもね‥

『もう髪切らないからね?』

『何だよ急に!?』

『ううん。ただの一人ごと(笑)』

『あっそ』

リュウジは私の肩に自身の肩を優しくぶつけてきた。ふと見上げるとリュウジと目が合った。「ありがとう」そう微笑みながら言って、私の頭に‥‥最後のキスをした。



『さて、そろそろ帰るかな。お前は彼氏の所に行くんだろ?』

『えっ?‥‥ん~‥』

曖昧な返事しか出来なかった。だって逢う約束なんて‥してないから。
龍二は私とリュウジの関係を疑い続けて、真実を知る前に身を引いてしまった。私の気持ちを伝える前に‥

もう‥私の事なんて‥

下を向いていると、リュウジは私の鼻をつまんできた。私はそのままの状態で言った。


『痛い~その手離してよ』

『お前は、また同じことを繰り返すのか?』

『えっ!?』

『また気持ち伝えないで後悔して苦しんで‥‥。そんなのもう十分だろ?だったら、きちんと気持ち伝えないと。
「好きだ!」って、自分の正直な気持ち伝えたことあるか?』

『そ、それは‥』

『勇気を出せ!!好きな相手に気持ち伝えて、そいつに甘えればいい。気持ちさえ繋がっていれば、どんなことでも乗り越えられるから』


まるでリュウジは、龍二の異動の話をしっているかのような言い方だった。ゆっくりと顔を上げると、リュウジはじっと私を見つめていた。

「行かなくちゃ!!」心の中の叫び声が聞こえた。私は両手に拳を作り、180度回って駐車場を目掛けて走り出した。


行かなくちゃ!龍二のもとに‥
逢いたいよ‥今すぐ龍二に逢いたい!!

無我夢中で車を走らせた。
< 71 / 140 >

この作品をシェア

pagetop