忘れられない人
陽菜は俺の視線に気付かず楽しそう鼻歌を歌いながらファッション雑誌を見ていた。

始めはパラパラとページをめくっているだけだった。たぶん、何が見たいとかそういった目的はないんだと思う。だって、その雑誌はほぼ毎日見てるやつだから(笑)

でも、しばらくすると陽菜の鼻歌と手の動きが止まった。そして徐々に、雑誌を自分の方に近寄せるのではなく自分から雑誌に近寄っていった。

何を見ているのか少し気になったので横目で今開いているページを確認した。「154ページ」それを見て俺は静かに立ち上がって台所へと向かった。


台所についた俺は、コーヒーカップを二つ用意して暖かいコーヒーをカップに注いだ。注ぐときは、できるだけ音を立てないように慎重に。その後、砂糖とミルクをおぼんの上に乗せて、さっき座っていたソファーに戻った。

陽菜は俺が一度傍から離れて戻ってきたことに気付かず食いつくように見ていた。


「‥何か‥さ‥‥‥寂しい‥。」

話がしたい。大好きな人の笑顔が見たい。でも‥急に声を掛けたら絶対驚くよな？俺は考えながらコーヒーカップに手を伸ばし砂糖を入れた。砂糖はすぐに溶けずにカップの下に沈殿していた。俺は、近くにあったスプーンを手にし混ぜた。

ｶﾞﾁｬｶﾞﾁｬ

静かにかき混ぜたつもりだったのに音が響いた。同時に、陽菜の肩がﾋﾞｸﾝと上がった。


『悪い。驚かすつもりはなかったんだ‥』

『あっ、ううん。私の方こそごめん。雑誌に見入っちゃったよ』

陽菜は屈託のない笑顔を俺に向けた。それが嬉しくてつられて笑った。

『コーヒー入れたから温かいうちに飲めよ』

『うん！！ありがとう』

陽菜は開いていた雑誌を閉じて横に置き、今度はコーヒーに釘付けになっていた。俺はその雑誌を持ち上げ「154ページ」を開いた。
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