忘れられない人
次の日、目が覚めるとリビングから慌ただしい音が鳴り響いた。何をしているのか気になったが、「いいよ」と言われるまで部屋にいるように忠告されていたので、静かに本を読んでいた。

でも、なかなか陽菜からの声が掛からない。それどころか、ガシャンと何かを落とした音が何度も聞こえてきた。心配になり、部屋から出てリビングの扉に手を伸ばした。

『まだ入ってこないで!!』

陽菜の焦り声が聞こえた。俺は咄嗟に伸ばしていた手を引っ込めた。

『あっ、悪い。でも‥大丈夫か?さっきから大きい音が聞こえてきてさ』

『心配しないで。‥もう少しで終わるから部屋で待ってて』

『あっ、うん分かった。何かあったら‥』

『大丈夫だから』

そう言われて俺は部屋に戻った。でも、その後も何度も大きな音が聞こえてきた。やっぱり心配になってきたので、さっきよりも慎重にリビングまで近寄った。部屋の中の様子は見えないけど、陽菜の独り言が聞こえてきた。

俺は、リビングの扉に背中を付けて座っていた。


しばらくすると慌ただしい物音が聞こえなくなった。俺は、座ったままの状態で右手で扉をコンコンと叩いた。でも、返事が返ってこない。

コンコンともう一度叩いた後「入るぞー!!」と叫んでも‥返事がない。

俺は禁断の扉に手を伸ばし開けた。


『うわぁ~』

目の前には、ずっと前から欲しいと思っていたソファーとテーブルだった。俺は歩いて近づき、手で肌触りを確かめたり匂いを嗅いでいた。すると部屋の奥から陽菜の独り言が聞こえてきた。

『龍二、喜んでくれるかな?』

嬉しそうに鏡に映ってる自分に話しかけていた。バレないようにもう少し覗いていると、真剣な目をして前髪を整えていた。俺に逢うだけなのに何度も何度も。

俺はリビングの扉の前に戻り、部屋に入ってきた状況を作った。


ガチャ

『陽菜、どこにいるんだ?って何だこれ?』

既に見て驚いた家具にもう一度歓声をあげた。すると奥の部屋から陽菜が出てきた。
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