忘れられない人
『どうだった?』

そう言って俺の隣に座った。俺はコーヒーを飲みながら「綺麗な店員さんがいた」と冗談で言ったのに、何故か陽菜が俺の胸をポコポコ叩いてきた。

『ちょっ、どうして怒る?店員と陽菜は同一人物だろ?』

コーヒーが零れないように慌ててテーブルに置いて陽菜を宥めた。

『そうだよ‥でも、龍二の一番は私でありたいの!!』

ムキになって言ってきた。
どうして、こいつは可愛いことばかり言うんだろう。俺は陽菜のおでこをくっつけた。

『俺が悪かった。だから機嫌直せよ?』

『‥‥‥』

おでこをくっつけたまま沈黙が続いた。この後どうしたらいいの分からない上に体が言うことを聞かない。

『‥あのさ~』

すると陽菜から離れた。

『もう、機嫌直ったから!!』

恥ずかしさからなのか、俺と目を合わせようとはしない。俺は無理矢理振り向かせた。

『本当だ。機嫌直ってる』

少しニヤニヤしていると陽菜の顔から笑顔が見れた。ホッとして力が抜けた気がした。俺はソファーに深く座って気になっていたことを聞いた。


『なぁ、このソファーとテーブルってどうしたんだ?』

『私から龍二へのプレゼントだよ。いつもありがとう』

体が一瞬止まった。
誕生日でもないのに、こんな高価なものを受け取っていいのか?そんな俺の気持ちを知らずに、陽菜は優雅にコーヒーを飲んでいた。

『あ、あのな‥』

ポケットに閉まっていた小さい箱を強く掴んだ。

『な~に?』

『‥‥‥』

俺はプレゼントを渡すタイミングを図っていた。「今渡したら交換したみたいでイヤだ!!」掴んでいた手を緩めて陽菜の頭を撫でた。

『ううん。何でもない』

『何それ。今日の龍二、何か変だよ?今デート中なのに‥』

『‥そうだったな。デート楽しまないと‥この後何するか。ゲームでもするか?』

陽菜は横に首を振った。

『じゃあ‥?』

すると真剣な目で俺を見てきた。

『昨日の‥‥龍二のお願いを聞いてあげるよ?』

俺の心拍数が一気に上がった。
< 92 / 140 >

この作品をシェア

pagetop