シチリアの空
「はい…お電話かわりました、渡辺です」

あたしは重い気分を何とか吹っ切ろうと
満面の作り笑顔で電話に出た。

こんな笑顔作ったって、
相手には見えてないのに…

「君か?昨日お店閉めてた子」

そこには確かに、昨日聞いた声の持ち主が居た。
あたしはもう逃げられないと思いつつも、

「あの…すみませんでした!
あたし、話すなって言われてたのに…
喋っちゃいました!」

と勢いよく謝った。

「あっ…でも他の人にはお話してません!
店長だけで…」

泣きべそをかきながら謝るあたしの声は
副社長の笑い声で遮られた。

「あはは!!君めっちゃおもろいわ」


…え?笑ってる?


「昨日の事はええねん、
どうせ根本くんに話すつもりやったし」

あたしは何だか安心して、
変なため息が出てしまった。

とりあえず、良かった…。

「まぁ本当は黙って様子見に行く予定やったんやけど。
君と目合ってしまったしな。
って言うても後々考えたら、君は俺の事知らんのにな」

そう言って、また笑う副社長。
あたしクビにならなくて済むんだ…!

「いえ、とんでもないです。
あたしこそ、失礼な態度取ってしまってすみませんでした」

そう謝ると、

「俺こそ変な事いうて、ごめんな」

と副社長も優しく謝った。


手汗で少し湿った携帯を店長に渡すと
しかめっつらをされた。

しばらく副社長と話をして電話を切った店長は

クビにならなくて良かったな、

とあたしの肩に手を置いた。
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