不幸者は名前を望む。


「いいよ。名前を君にあげる―――僕じゃなくて、僕の大事な人の名前をあげる」

「お前じゃないのか…?」

馬鹿ばか。
そう思っていたのに、コイツの名前を貰えないのがとても心を抉る。

コイツの大事な人の名前なんて、なおさら嫌だ。

そんなわたしの心情を知って知らずか……いや、わたしのことなんてコイツはいつもわかっている。

わかっていて、話し出す。
“大事な彼女”の話を。


「彼女はとてもしっかりしていてね、そのくせ強がりで寂しがり屋で……誰よりも“   ”を、愛し…た」


「いま、なんて…?」
聞こえなかった。
肺に空気が入らないのか、だんだんと息苦しそうに胸を上下させている……近いんだ。無が。


「理(ことわり)」


「……?」

「彼女の、名前……素敵だろ」

「…うん。たぶん」

「ははっ…。君も素直じゃない、な……………」



“お休み”


最後に、そう言った気がした。
なにがお休み、だ。
わたしのせいで、死んだのに。


最後の最後まで笑顔で、幸せそうで、満たされた顔して。

< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop