不幸者は名前を望む。
「いいよ。名前を君にあげる―――僕じゃなくて、僕の大事な人の名前をあげる」
「お前じゃないのか…?」
馬鹿ばか。
そう思っていたのに、コイツの名前を貰えないのがとても心を抉る。
コイツの大事な人の名前なんて、なおさら嫌だ。
そんなわたしの心情を知って知らずか……いや、わたしのことなんてコイツはいつもわかっている。
わかっていて、話し出す。
“大事な彼女”の話を。
「彼女はとてもしっかりしていてね、そのくせ強がりで寂しがり屋で……誰よりも“ ”を、愛し…た」
「いま、なんて…?」
聞こえなかった。
肺に空気が入らないのか、だんだんと息苦しそうに胸を上下させている……近いんだ。無が。
「理(ことわり)」
「……?」
「彼女の、名前……素敵だろ」
「…うん。たぶん」
「ははっ…。君も素直じゃない、な……………」
“お休み”
最後に、そう言った気がした。
なにがお休み、だ。
わたしのせいで、死んだのに。
最後の最後まで笑顔で、幸せそうで、満たされた顔して。