どこまでも、蒼く


正直、自分でもどうしていいか分からないのだ。陽菜は慶汰にお礼を言いたくてわざわざ名古屋から東京に引っ越してきたのに、それが出来ないまま卒業したら名古屋に帰ってしまう。

来た意味がないような気がするんだ。

陽菜にとって慶汰は憧れの存在。
俺が芸能人に恋をするのとなにも変わらないじゃないか。
そう、なにも。


この嘘を、陽菜に打ち明けたら何か変わるかな?


『蒼井陽菜?誰それ?』


慶汰は俺の予想した通りの返事を返す。
やっぱり知らないか。
当たり前だよな。


東京にはうんざりするくらいの人がいて、すれ違う人の顔を全て覚えられるわけでもないし。

この言葉が真っ当だろう。



『知らねぇならいいわ。』


俺はこう言って、少し温くなった牛乳を口に流し込んだ。



もし、この時慶汰が陽菜のことを知っていると言ったら、俺は慶汰を殴っていただろう。



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