初恋
………
「戦争、いつ終わるのかなぁ」
廣の部屋で膝を抱えて、あたしは呟いた。
「もうじきだよ」
いつもの様に呟く廣。
棚の上のレコードを、一枚一枚見比べていた。
「それ…」
「もらったんだ、内野さんに」
そう言うと、それらを棚に大事そうにしまった。
内野さんは、数日前に軍隊に入隊した。
近所の人達で作った千人針はなんとか間に合って、愛ちゃんのおばちゃんが代表で渡した。
内野さんは「ありがとうございます」と礼儀正しく言って、姿勢よく敬礼をした。
その姿を見ながらあたしは、もっと彼と親しくすればよかったと後悔した。
「廣はどう思う?」
あたしはふいに廣に声をかけた。
「何が?」と言い、あたしの隣に腰かける。
「この戦争、日本が勝つと思う?」
あたしの唐突な質問に少しだけ驚いた素振りを見せたが、ふうっと息をついて言った。
「負けるわけないだろ。日本は神国なんだ。神風が米兵なんて取っ払うさ」
散々言い聞かされてきた台詞を真面目な顔で口にしたかと思うと、すぐに小さく悪戯そうに「なんてな」と笑って呟いた。
そして立ち上がり、ピアノの埃をそっと指で撫でた。