初恋
「正直俺は、よくわからないんだ」
ふうっと指先の埃を吹いて言った。
「何のために戦争なんてするのか」
あたしは廣の言葉に驚いて立ち上がった。
「何言うの!?非国民だって言われるよ!?」
「真友しか聞いてないから大丈夫だよ」
そう言って廣は続けた。
「戦争のせいで、思想も音楽も制圧されてる。会ったことのない海の向こうの異人を憎み、殺すまで死ぬな、殺して死ねと叩き込まれる。…そんなことに、意味なんて見い出せねぇよ」
あたしは黙って廣の話を聞いていた。
それはきっと、多くの人が思い、口にできないでいることだった。
「廣は…憎くないの?アメリカが」
廣はあたしの方を向いた。
あたしは軽く目を伏せる。
…廣のお兄さんは、フィリピンで戦死していた。
遺品は、手帳に挟まれた家族写真だけだった。
「あたしは…やっぱり憎いよ。戦争の意味なんてわかんないけど…やっぱり、大切な人を殺したアメリカが憎い」
圧し殺した様なあたしの声を聞いて、廣はポンッと優しく肩を叩いた。