初恋



「初めてジャズを聞いた時さ」


突然変わった話しに、あたしは顔を上げた。

「この世界にこんな素晴らしい音楽があるのかって、感動したんだ。自由でかっこよくて、めちゃくちゃ楽しい音楽」

あたしの目を見て廣は続ける。

「思ったんだ。音楽は、国境を越えるんだって。音楽だけじゃない。感動だって国境を越える。言葉や肌の色が違っても、共有できる感情を俺達は持ってるんだ」

あたしは真剣に廣の話しに耳を傾けていた。

「確かに…兄貴を殺したアメリカ兵を、憎くないと言ったら嘘になる。でも、俺達だって同じことをしてるんだ。『敵を殺せ』と教えられて、知りもしない敵兵を殺す。でもその敵兵にも、家族や大事な人がいるはずなんだ。憎み合ってたら、きりないだろ」


そう言うと、かたんとピアノの蓋をあけた。
久しぶりに鍵盤を見た気がする。




「憎むべきはアメリカなんかじゃないんだ。本当に憎まなきゃいけないのは、戦争自体なんだよ」







…この時代、言ってはいけないことだった。

でもそれは、本当に当たり前のことだった。


誰もがわかってることなのに、どうして戦争は続くのだろう。


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