初恋
「いつか来るといいな。自由に音楽ができて、アメリカ人も中国人も日本人も、みんな関係なく同じ感動を分かち合える様な日がさ」
そう言うと、廣はピアノの椅子に座った。
「リクエストをどうぞ」なんてちょっとかっこつけて言う廣。
あたしは少し考えて、小さく呟いた。
「…ジャズ」
あたしの一言に、廣は驚いた表情を見せた。
でもすぐにいつもの微笑みに戻って、「ハンディでいい?」と聞く。
あたしが頷いたのを確認して、廣は一番始めに弾きこなしたW・C・ハンディのブルースを小さな音で弾き始めた。
狭い部屋に小さく響く異国の音色。
どうしてこれがいけないのだろう。
どうしてこれが悪いことなのだろう。
廣の長い指先から流れる音色は
こんなにも綺麗で、切ないのに。
…狭い廣の部屋。
隠れる様にして弾いたジャズ。
温かい、廣のぬくもり。
これは全部、いけないことなの?
こんなに幸せなのに、いけないことなの?