初恋
………
その日はあまりにも突然訪れた。
始め、廣の差し出した紙の意味をとらえることができなかった。
もう何度も目にして来たはずなのに。
あたしの背で母さんが立ち尽くしていたが、すぐに深々とお辞儀をした。
「おめでとうございます」
紙を持ったまま呆然としたあたしを気にしながらも、廣はしゃんと背筋を伸ばして敬礼した。
その真剣な表情は、廣じゃないみたいだった。
「御国のため、精一杯戦って参ります」
…赤紙…
召集令状だった。
この時代、学徒出陣なんて当たり前になってきていた。
内野さんだって学生だった。
文学部の廣には、いつ召集がかかってもおかしくなかった。
でもどこかで信じてた。
廣に赤紙が来る前に、この戦争は終わるのだと。
…廣が出ていった玄関から、あたしは一歩も動けずにいた。