初恋




………


その日はあまりにも突然訪れた。

始め、廣の差し出した紙の意味をとらえることができなかった。

もう何度も目にして来たはずなのに。


あたしの背で母さんが立ち尽くしていたが、すぐに深々とお辞儀をした。




「おめでとうございます」




紙を持ったまま呆然としたあたしを気にしながらも、廣はしゃんと背筋を伸ばして敬礼した。

その真剣な表情は、廣じゃないみたいだった。




「御国のため、精一杯戦って参ります」














…赤紙…



召集令状だった。











この時代、学徒出陣なんて当たり前になってきていた。

内野さんだって学生だった。

文学部の廣には、いつ召集がかかってもおかしくなかった。




でもどこかで信じてた。

廣に赤紙が来る前に、この戦争は終わるのだと。







…廣が出ていった玄関から、あたしは一歩も動けずにいた。













< 14 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop