初恋
………
ようやく落ち着いて居間に降りると、おばあちゃんがぬれおかきを食べながらテレビを見ていた。
泣きはらした目を見られないようにキッチンに行こうとする。
「何かあったかね?」
カサッと袋の擦れる音と共に、おばちゃんの声が背中を追った。
渋々振り向いたあたしに、おばあちゃんはテレビを見ながら呟く。
「彼と喧嘩でもした?」
眼鏡の向こうにあるしわだらけの目を悪戯そうに向けるおばちゃんに、あたしは驚いて言った。
「え?何で…」
「わかるわよ。おばあちゃん、これでも女だもの」
ふふっと微笑んでテレビを消す。
おばあちゃんの笑顔は、いつも少女の様だと思う。
あたしはキッチンに通じるドアから手を離し、居間に入って行った。
「だってあいつ…いっつもバンド優先すんだよ。あたしとの約束なんて二の次で…結局あたしなんて、その程度なんだよ」
おばあちゃんの前に体育座りをして呟く。
目頭が熱くなった。
涙腺、弱くなってる。
ふいにおばあちゃんが微笑んだ。
そんなおばあちゃんをいぶかしげに見つめる。
「何で笑うのぉ?」