初恋
………
「廣!」
勢いよく部屋のドアを開ける。
他の部屋と違って少し洋風なこじゃれた雰囲気。
その中で響くのは、ようやく耳になれてきた異国のリズム。
あたしは明らかに不機嫌な顔で肩を落とした。
ピアノを弾く手を止めて、廣が振り向く。
「おう、真友!」
ご機嫌な笑顔。
あたしは部屋に足を踏み入れて、ドサッとソファーに腰を下ろした。
「まぁたその音楽?」
嫌そうなあたしとは正反対に、廣は相変わらずご機嫌に言った。
「昨日、ようやく新しい楽譜手に入れたんだ!聞く?」
「聞かないっ!」
あたしはぶすっとしながらソファーの上で足を抱えた。
「なぁんでそんな嫌いかなぁ、ジャズ」
ふうっと肩を落とす廣。
あたしはそんな彼をキッと睨んだ。
…廣は何にもわかってない。
あたしが嫌いなのはジャズじゃない。
ジャズに夢中になりすぎる廣が嫌いなの。
…あたしといる時くらい、ジャズのことなんか忘れてよ。
そう思うけど、口に出しては言えなかった。