初恋


廣がジャズに夢中になりだしたのは、半年程前からだった。


近所に下宿し始めた大学生が毎晩レコードを聞いているらしく、その音楽に気付いたら虜になっていたそうだ。

廣は昔からピアノをやっていたから、ジャズの楽譜を見つけては弾いたり、耳だけで覚えたりしている。

廣の弾く音楽は好きだけど、ジャズに夢中になりすぎる廣は嫌いだった。



「そういえばお前、何しに来たの?」

ふんふんジャズを口ずさんでいた廣は、ふいにあたしに言った。
なにそれと思いながらも、あたしは呟く。


「明日、お祭りだからさ。…一緒に行けるかなーって」
「なんだ、そんなこと」

あっさり言ってラジオに手をかける廣に、あたしはムカッとして言った。

「なによっ!そんなことって…」
「一緒に行くに決まってるだろ?」


ラジオをいつものチャンネルに合わせる。

割れた音で、ジャズが流れ出した。

ニヤッと笑い、あたしのおさげを引っ張る。



「色っぽい浴衣希望な」



…ずるい。


あたしはこの、廣の笑顔に弱いんだ。


頬を赤く染めながら、廣の胸元を軽く叩いた。










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