初恋
………
「母さーんっ!これ、おかしくない?」
縁側でお茶っ葉を干す母さんに、あたしは駆け寄って行った。
「帯曲がってない?」
「大丈夫大丈夫」
大して見てもないくせにそう呟く母さんに「もうっ」と言い放って、あたしは玄関に向かった。
履きなれない下駄を履いて、おばあちゃんがこしらえてくれた巾着を持つ。
カランと夏の音を響かせながら、あたしは玄関を開け放った。
…「お、浴衣」
石橋のたもとで、いつもの格好の廣が待っていた。
浴衣を期待していたあたしは少し肩を落とす。
「廣も浴衣かと思った」
「真友の浴衣を引き立たせなきゃいけないと思ってさ」
「口ばっかうまいんだから」
ぶぅっと口を尖らせるあたしの手を、流れるように廣が取った。
「行こ!いい場所取らなきゃ」
カラコロと音をたてながら歩くあたし。
その歩幅に合わせながら、廣もゆっくりと歩く。
あたしの手を握る廣の大きな手が、あたしは笑顔の次に好きだった。