初恋
………
「うまい?」
「美味しいよ。食べる?」
「一口ちょうだい」
人ごみを歩きながら、廣はあたしの持つ綿菓子に口をつけた。
「甘っ」と口をすぼめる廣。
思わずあたしは吹き出した。
辺りはすっかり暗くなっていて、お祭りの陽気な音楽と風車の音が夜に鳴り響いている。
廣はあたしの手を引いたまま、神社の境内の裏に進んだ。
「覚えてる?この辺」
「覚えてるよ。廣が迷子になったとこでしょ?」
「ちげーよ!真友を探しに行って道に迷ったんだって」
「同じだよ」
徐々に祭り囃子が遠退いて、あたしの笑い声がよく響いた。
廣は少しだけ高い場所に上り、浴衣のあたしを持ち上げる。
「ここならよく見える」と満足そうに呟いて、近場の岩に腰かけた。
あたしもそれに倣う。
「学校楽しい?」
廣が聞いた。
「うん。裁縫の時間は苦手だけどね。廣は?」
「まぁまぁかな」
そう言うと近くの葉っぱをちぎり、器用な手先で笛を作り始めた。
廣はあたしより2つ年上。
大学で国文学を専攻していた。
本当は音大に行きたかったみたいだけど、お金の事情で諦めた。
遠くの音大には行ってほしくなかったから、あたしは内心ほっとした。