初恋
………
カタカタと風が窓を揺らしていた。
ガラス越しに外を見る。
すっかり禿げた木々が木枯らしに吹かれて寂しそうになびいていた。
ぶるっと肩を震わせて、居間に投げ捨てておいた半纏を羽織った。
「内野さん、出兵が決まったみたいね」
半纏の上から腕をさするあたしに、縫い物をしていた母さんが言った。
「内野さん?」
「ほら、廣寿君のお家の隣に下宿してた」
「あぁ」と思い出した様に呟いて、あたしは母さんの前に座った。
彼はあたしの中では『大学生のお兄さん』であって、名前も何も知らなかったのだ。
あまり近所の人達にも溶け込まずに、1人部屋に籠っている印象だった。
「千人針、間に合うかしらね」
パチンと糸を切り、あたしの学生服のほつれを整える。
あたしは母さんの手元を見ながら呟いた。
「…日本は勝ってるんだよね?」
母さんはパンッと布を張る。
「日本は神の国よ」
そうしてまた縫い物を始めた。
「そうだよね」と呟きながら、母さんが質問に答えていないことにも気付いていた。
みんなそうだった。
言い聞かせる様に、日本の勝利を信じている。
そんな時代だった。