あたしと彼と白いキャンバス
結局、絵を描かずに美術室を後にした。


空は曇っている。

灰色よりも濃い、鉛色だ。

いつ雨が降り出してもおかしくはない。



マンションのエレベーターを降りて。

鞄から鍵を取り出しながら部屋の前までいく、と――。



扉の前に座り込む人の姿があった。



黒い髪に繊細な顔立ち、
折りたたまれた長い足。


紛れもなく、篠宮千里だ。



彼はゆっくりと立ち上がり、あたしを見て口を開く。


「……やあ」
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