あたしと彼と白いキャンバス
薄く微笑んだその顔は白く。

掛け軸の幽霊が抜け出たようだった。


足元には数冊のスケッチブックが落ちている。



「なに…してるんですか」

「――寒いんだ」


先輩の手が伸びて、あたしの指を軽く掴む。


酷く冷たかった。

凍えた指先が赤く染まっている。


いつからこの場所にいたんだろうか。



あたしを待って、いたんだろうか?



「結、」


そんな悲しげな笑みで壊れそうな声で名前を呼ぶなんて卑怯だ。





――そしてあたしは扉の鍵を開けた。
< 201 / 321 >

この作品をシェア

pagetop