楽園─EDEN─
「そ、そうです!ダメですよ!」
常日頃、人より半歩ずれたテンポで日常生活を送っている天然執事・イヴも、やっとここでハッと我に返り敬愛するマイ・ロードを諫めようと口を開いた。
その異形の白髪を襟足にそってわずかに伸ばし、左の目には約15cm程の青痣を直線上に刻んでいるその姿は……一見、どう見ても“常人”には見受けられなかった。
あまつさえ、その傷がその目を引き裂くように生々しい痕を残している事に…エリゼ、基この城の者はあまり気にしていないようでもあった。
「何で!何でダメなのよ!?いつもいつも城にいるだけじゃ、息が詰まってつまらないんだもの」
そう言って、ぷーっ…と今にも飛んで行きそうなくらいに頬を膨らませ、不快感を表すエリゼ。
そんなにエリゼに、彼女のお目付け役でもあるスズネが告げる。
「エリゼ様。
あなたはこの城の主です。この城を守らなくてはならない立場です」
まるで儀式の祝詞を読み上げるように、淡々と言葉を紡ぐスズネのその表情からは、何も読み取る事が出来ない。
「そうですよ、エリゼ様。今、貴族目当てに盗みや強盗を働く輩もいると聞きます。そんな危険な中にエリゼ様を…」
「いーやー!!だって、"城主が街に遊びに行ってはいけません"なんて決まりは無いはずでしょう!?ずーっとず──っっと城の中にいるだけじゃ、つまらないもの!!」
きいいぃぃ!!と癇癪を起こしたように、その色素の薄い銀色の髪の毛をかきむしるエリゼ。
その聞き分けのない主の様子に、スズネは小さく嘆息した。