ある日モテ期がやってきた!!~愛されすぎてどうしよう~
その瞬間、普段聞かない妙な音が、携帯からしたような気がした。
慌てて拾いに行ったけど……予想通り、見事に破損している。
「電源入らないし、画面割れちゃってる……」
投げた角度と当たりどころがよかった……いや悪かったせいで、携帯はとても残念な状態になってしまった。
「犬飼くん……」
犬飼くんが苛立ってるなんて珍しい。 というか、こんな風に怒ってる姿を初めて見た。
「……だから頑固者は嫌いなんだ」
呟くようにそう言って、頭をガシガシと掻く。
「あぁ、えっと……とりあえず渉に連絡しといてくれる?
“携帯ぶっ壊したからしばらく連絡出来ません。 姉と妹に報告よろしく”ってことで」
「あっ、うん、わかった」
壊れた携帯を私の手から抜き取って、ポケットにしまってから天井を見上げた犬飼くん。
何度も深呼吸してから、いつもみたいに微笑んだ。
「あとで啓介ん家に行ってみる。
携帯壊れちゃったから今日は連絡出来ないけど、明日ちゃんと報告するね」
「でも、今は会わない方がいいんじゃ……」
「大丈夫、ちょっと話してくるだけだから。
まぁ、お互いキレて殴り合いになる可能性もあるけど」
「な、殴り合いって……」
まさかそんなこと、しない、よね……?
「啓介って強いんだよなぁ。 殴り合いになったら俺、絶対勝てない」
「け、喧嘩なんかしないよね……?」
「んー、どうだろうねー?」
……犬飼くんの行動とか言葉とか笑顔とか、時々凄く不安になる。
「ま、殴り合いにならないように今回は頑張ってみるよ」
「“今回は”って……いつもは殴り合いばっかりって言い方だね……」
「あはは、否定しない」
……二人が殴り合ってる姿ってのは、あんまり想像がつかないけど……大丈夫かな……。
犬飼くんはニコニコ笑ってるけど、不安ばかりが増していく。
「でも、大丈夫。 きっと、全部がいい方向に進むよ」
「……うん」
不安は拭えなかったけど、それでも犬飼くんの「大丈夫」と言った笑顔を信じて、今はただ、静かに頷いた。