ある日モテ期がやってきた!!~愛されすぎてどうしよう~


私、犬飼くんや啓介くんのこと、全然何も知らないんだなぁ……。

それだけじゃなくて、1年の時から同じクラスだった青山が、ピアノを習ってたことすらも知らなかった。


ずっと近くに居たつもりだったけど、でも、本当は何も知らなかった。

その事実に、少しだけ心臓が痛む。


「私、みんなのこと全然何も知らなかったんだね。
暗室で笑って話したり勉強したり、屋上へ行ったり、休みの日に一緒に出かけたり……色々あったけど、全然何も知らなかった」


言い様のない寂しさが、体を包んでいく。




「んなもん、これから知っていけばいいだけじゃん?」

「……え?」


あっけらかんとした青山が、ニコッと笑う。


「俺だって、あいつらの全部を知ってるわけじゃないし、結城のことは、ずっと同じクラスだけどほとんど何も知らない。
人と人が出会った時っつーのは、お互いの関係はゼロとゼロだろ? それが段々とプラスになって、仲良しになって、そして、好きになる。
今は知らなくても、これから知っていくことは出来る。 そういうものなんだから、あんまり悩むなよ」


ポンポンと私の頭を叩き、青山ははにかむ。




「なんか俺、すっげー真面目なこと言ってない?
やっべ、自分で言って自分に惚れた!!
結城も惚れただろ? な、俺カッコイイだろ?」


……そういうことを言わなきゃ、本当にカッコイイんだけどね……。

でも、ありがとう。

青山の言葉で、ちょっとだけ元気が出た。


今は知らなくても、これから知っていくことは出来る。

ほんと、その通りだね。




「今の青山、凄くカッコイイよ。 馬鹿だけどね」

「おい、“馬鹿”は余計じゃね?」

「だって本当のことだもん」

「この野郎、キスするぞ」

「キャー、やめてー」


二人きりの教室で、バタバタと走り回る。

色々なことがあって、ため息ばかりついていたけれど。

それでも、青山と一緒に居る今は楽しく笑うことが出来た。




「青山ー」

「おー?」

「色々、ありがとね」

「……おうっ」


犬飼くんから連絡はないし、啓介くんからの返事もないけれど、それでも私は、青山と居る今、微笑みを浮かべた。


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